「坂道10本ダッシュな!」
学生時代に体育会系の部活動をしていた人にとっては「坂道ダッシュ」を経験した人は多いのではないでしょうか?
かくゆう私も、心臓が張り裂ける思いをしながら坂ダッシュをしてきた経験があります。
坂道ダッシュ、非常にキツイですよね。ただでさえ、キツイ坂をダッシュの全速力で駆け上がるというのは肉体的にも精神的にも負荷がかかります。
坂道ダッシュとは、傾斜のある坂道を80%程度のスピードで走って上り、同じ距離をジョグ、または歩いて下ることを繰り返し行うトレーニング方法です。
短距離や野球部などで行われているイメージが強いですが、瞬発力やスピードの向上に繋がるので、実はマラソンランナーにも効果的なトレーニングなんです。
坂道ダッシュを効果的にトレーニングメニューに組み込んでいけば、フルマラソンでタイム向上にも繋がっていきます!
この記事では、坂道ダッシュの効果や坂道トレーニングのやり方、ポイントについて紹介していきます。
坂道ダッシュの効果/メリット
「坂道ダッシュなんてやって本当にタイムが上がるの?」と疑問に思いませんか?
「キツイ分、速くなる」と言うのは、単なる『根性論』ではなく、科学的な根拠があります。
実際、坂道ダッシュの有効性を調査した研究論文があります。
Tziortzis(1991)の研究では、8度の登り坂を使って12週間坂ダッシュを行ったところ、ピッチ(足の回転スピード)が2.4%上昇し、最大スピードが3.3%向上したと報告されています。
マラソンランナーにとって坂道ダッシュは効果絶大と言うわけです!
坂道ダッシュを行うメリットは他にもあります。
効果/メリット①短時間で高強度の負荷をかけられる
坂道ダッシュは、傾斜のある坂をダッシュで駆け上がります。坂を上るだけでも負荷がかかるのに、そこにさらにダッシュを行うので、2倍以上の負荷をかけます。
やはり上り坂を走ることによって、平坦なコースを走るよりも、心肺機能に大きな負荷をかけることができます。
高負荷をかけ、短時間のトレーニングでも効果を出すことができます。
非常にキツイトレーニングですが、10本行なっても、10分〜15分程度という短い時間で終えることができ、スピードを改善する大きな効果が得られます。
効果/メリット②絶大な心肺機能強化が得られる
「ランニングのペースをあげると息が上がってスピードの維持ができない…」と言う悩みはありませんか?
坂道ダッシュを繰り返すと、どんどん息が苦しくなり酸欠状態になります。
このようなトレーニングを繰り返すことで、血液中の酸素を運ぶ物質「ヘモグロビン」の濃度が増えていきます。
体の中に酸素をため込む能力「最大酸素摂取量」が向上します。
また、酸欠状態になると筋肉の細胞内にあるエネルギー工場「ミトコンドリア」の生産性が工場し、酸素を上手に使ってエネルギーを生み出せるようになります。
結果的に、心肺機能が向上し、スピードを上げても息が切れない体になっていくのです。
効果/メリット③スピード・ストライドupのための筋力向上
マラソンの記録を向上させたいなら、持久力やスタミナだけでなくスピード強化も重要です。
マラソンで速く走るために2つの方法があります。
速いペースで走ることで鍛えられる「速筋」とゆっくり走ることで鍛えられる「遅筋」の2種類の筋肉を鍛えなければいけません。
それぞれ特徴があり、速筋は大きな力は出せますが、持久力は乏しいです。遅筋は大きな力は出せないものの、持続して力を発揮できる、という特徴です。
坂道ダッシュでは、運動強度が高いので、速筋が鍛えることができます。
不整地(平坦ではない道)を走るクロスカントリーと似ているのですが、坂道という地形を利用して、自然に筋肉に大きな負荷をかけることができます。
出せるスピードの最大値が上がることによって、目標タイムを出すために必要なペースも楽々出せるようになりますよ!
坂ダッシュでは、スピードを出すために必要な裏ももの筋肉(ハムストリング)やお尻の筋肉(大臀筋・中臀筋)が効率よく鍛えられます。
地面を強くけることができるので、一歩の幅(ストライド)もぐんぐん伸びていきますよ!
効果/メリット④失速を防ぐスタミナを強化に繋がる
坂道をダッシュで駆け上り、下りは軽いジョグで息を整える。
息が整い切る前にまたダッシュ…
このように、小休憩を挟みながら行うトレーニングをインターバルトレーニングと言います。
インターバルトレーニングによって、連続で走り続けるよりも息が上がった状態で筋肉が大きな力を発揮することができます。
酸欠状態で大きな力を発揮しようとすると、エネルギー生成を間に合わせようと、「乳酸」と言う物質が発生します。
乳酸は出続けると、筋肉が固まって動かなくなってきてしまいます。ダッシュしているとある地点から足が動かなくなるのはこのせいです。
坂道ダッシュトレーニングを積むことで、乳酸を使わずとも速く、長く走れるようになりスタミナ強化に繋がります。
効果/メリット⑤効率の良いフォームの維持・改善に繋がる
坂道ダッシュをすることで、効率の良いフォームの維持・改善に繋がります。
なぜかというと、坂道ダッシュをするには正しいフォームを心がけなければ坂道を駆け上げられないからです。
例えば、坂を上るときは強い腕振りが必要になります。傾斜をダッシュで駆け上がるため、自然と足を上げ、腕振りが大きくなるからです。
なので、坂道ダッシュを行うと自然と身体の動きが大きくなり、大腿部(太もも)が引き上げられるので普段の走りでもダイナミックな走りを身につけるのに役立ちます。
普段、ジョギングやペース走など一定の走りをしているとどうしても動きが小さくなりがちです。
特に疲れてくるとフォームが崩れがちですが、そのまま走っていては余計に疲れます。
坂道ダッシュでしっかりトレーニングして、疲れてからフォームを修正できるようになれば、疲労困憊のレース後半でも安定したフォームをキープして最後まで走りきり自己ベストに近づけることができます。
効果/メリット⑥レース中の登り坂対策
フルマラソンのレース中に現れる登り坂で、一気に精神と体力を削られたてしまった経験はありませんか登り坂で体力を使ってしまい、レース後半に失速してしまうことも少なくありません。
登り坂に苦手意識を持つランナーさんも多いのではないでしょうか?
レースの登り坂対策としても坂道トレーニングは効果的です。
登り坂を上手に走るとポイントと合わせて対策をしていきましょう
坂道ダッシュの効率的なやり方
ここまで坂道ダッシュのメリットと効果をお伝えしてきましたが、より効率的に行う方法が気になるところだと思います。
坂道トレーニングを怪我なく効率的に行う方法をご紹介していきます。
坂道の長さ・傾斜はどれくらいがいいの?
坂道ダッシュのトレーニングを行うときに、「どんな坂がいいのか?」気になりませんか?
まず坂の傾斜について結論から言うと、あまり気にする必要はありません。
ただし、傾斜が緩すぎると、十分な負荷がかからず、坂道ダッシュの効果が半減してしまいます。
逆に傾斜がきつすぎると、上るときのフォームが、普段のランニングフォームとかけ離れたものになっては意味があります。
もし、「どうしてもわからないので教えてください!」という人に向けて参考に教えておくと、坂道の長さは、だいたい50m〜80m程度が良いでしょう。
ただ、これもあくまで目安なので、まずは走ってみて心肺機能や全身、フォーム、特に足にかかる負荷が大きいかどうかで長さや傾斜試しながら判断してみてください。
坂道ダッシュの際のフォーム5つのポイント
坂道ダッシュを行っていると、どうしても苦しくなってガムシャラに腕を振ってフォームが乱れがちです。
ですが、怪我なく効率的に坂道ダッシュを行うには、フォームの意識を忘れることなく走ることが重要です。
慣れないうちは、スピードよりも正しいフォームで走ることの方が大事ですよ!
1.頭が空から引っ張られるように背筋を伸ばす
2.胸の中心が斜め上に引っ張られるように軽く上体を前傾させ胸から前に進む
3.腕をいつもより1~2cm後ろに引くつもりで大きく振る
4.膝をしっかり持ち上げ、重心の真下に着地する
5.着地してから足の裏が後ろを走るランナーに見えないように素早く引きつける
【ランレベル別】坂道ダッシュのトレーニング方法
坂道ダッシュは本数の増減によって、心肺機能・筋肉に大きな負荷をかけることができます。
なので、自分のレベルにあった本数、距離を設定してトレーニングを行なっていきましょう。
◆ビギナー向けメニュー
具体例をあげると、4時間〜5時間台での完走を目指すビギナーランナーであれば、距離を短めに設定し、繰り返しの本数は3回程度にしておきましょう。
いつものジョギング練習と合わせて月に1〜2回、坂道ダッシュを加えると効率よくトレーニングを行うことができます。
◆サブフォーを目指すランナー向けメニュー
サブフォーを目指すランナーであれば、繰り返しの本数を10本程度まで増やしたトレーニングを行なってもいいでしょう。
坂道の距離は50〜200mほどがいいでしょう。強度上げていきたいなら、100m〜150m程度に伸ばし、5回〜10回を繰り返します。
こうすることでインターバルトレーニングに近いスピード系のトレーニングになります。
10本行なっても、10分〜15分程度という短い時間で終えることができ、スピードを改善する大きな効果が得られます。
ただし、注意点として、筋肉や心肺機能にかなり大きい負担をかけるので、無理はしすぎないことと、終わった後はしっかりとストレッチやクールダウンを行いましょう。
自分のマラソンレベルやコンディションなどによって、坂道ダッシュの本数や頻度、距離は調整してみてくださいね!
◆サブスリーを目指すランナー向けメニュー
やるべきメニューはサブフォーランナーと同じです。
100m〜150m程度の坂道を、5回〜10回を繰り返します。
同じメニューではありますが、一定のスピードで走り切ることが大事です。
回数を重ねるたびに、心臓もドクンドクンと脈をうち、喉が痛くなるほど息が上がると思います。
乳酸が出てきて足が重たくなり、吐き気を感じるかもしれません。
走り終わったら、とにかく深呼吸をして、息を整えてください。辛くなってもフォームが乱れないように取り組むことが大事です。
坂道がない時は…?
「家の近くに坂道がない!」そんな方もいると思います。
長く真っ直ぐな坂道がない場合はどうすればいいのでしょうか?
坂道探しに遠出ラン
家の近くに坂道がない場合は、気分転換に遠出して坂道を探しにいくのもありです!
土手のある河川敷には、スロープ状の長めの坂道があることが多いです。
山に囲まれて地域なら、山の麓は緩やかな坂道から、ハードな急勾配に出会える可能性も!
月1程度で通える距離に坂道練習場を探しておくと、便利です!
階段ダッシュで代替
坂道ダッシュができずとも、階段があれば同等の効果が得られます。
通常の階段だと、一段の幅が狭いので登るよりも2段とばし程度で進むと丁度いいでしょう。
踏み外して怪我だけはしないように注意してくださいね!
わずか7日間で腰高フォームを手にした方法
必死に練習してるのに結果が出ない…。そんな時に気をつける2つのチェック項目とは?
登るだけじゃない!?下り坂ダッシュの効果
坂ダッシュは上りだけでなく、下り坂ダッシュも効果的です!
マラソンでは、ピッチ(足の回転速度)をあげることも重要です。
坂道を降ることによって、スピードが出るので自然と足の回転数が上がっていきます。
ピッチを上げたい方は是非取り組んでみてください。
下り坂を走る時は、足腰に平地の2〜3倍の負荷がかかると言われています。
下り坂を走るときのフォームのポイントも抑えて行ってくださね!
1.体を前傾にしてブレーキがかからないようにする
2.腕をほんの少し抱え込んで、コンパクトに腕振りをする
3.足を体の真下に着地するようにする
坂道トレーニングを行う際の6つの注意点
効果が高く魅力的な坂道トレーニングですが、体への負担が大きいので注意も必要です。
怪我なく効率よくトレーニングを積むためには、これらのポイントも抑えておきましょう。
注意点①準備運動をしっかりする
坂道ダッシュは平地よりも大きな筋力が発揮されます。
いきなりダッシュをし始めてしまうと、筋肉が対応できずに怪我につながってしまいます。
最低でも20分程度のジョギングで体を温めてから行いましょう。
注意点②とにかくフォームが命
坂道ダッシュで追い込もうと思うと、どうしてもガムシャラになってフォームが乱れがちです。
怪我をしないためにも、よりトレーニング効果を高めるためにも、追い込むことよりも、綺麗なフォームで走ることを優先させましょう。
注意点③いきなり追い込まない
坂道ダッシュは、かなり負荷の高いトレーニングです。
心肺、筋肉に大きないきなり大きな負荷がかかると怪我につながります。
坂の傾斜、ダッシュの距離、ダッシュの本数で強度を調整していきましょう!
注意点④ストレッチは念入りに
坂道ダッシュの後は、より入念にストレッチやマッサージなどのケアが必要です。
乳酸が溜まって足もパンパンになっていると思います。
血流を促して、疲労物質を除去し、筋肉回復のための栄養が行き渡るようにしてあげましょう。
傾斜がある分、平地に比べて足首が動く角度が変わります。
その影響でふくらはぎがパンパンに張ってしまうので、しっかりケアをしておきましょう。
注意点⑤栄養補給もしっかりと
高強度のトレーニングの後は、筋肉にダメージが残ります。
素早く回復するためには2つの栄養素が重要です!
トレーニング後、24時間以内には摂取するようにしましょう。
エネルギー源を回復する『糖質』
筋肉に溜め込まれたエネルギー源「筋グリコーゲン」は使い果たされてしまっています。
次の日の体のダルさや重さを回避するには、筋グリコーゲンの元となる糖質摂取が重要です。
白米など主食を取りましょう。
筋肉を回復させる『タンパク質』
トレーニング後は筋肉の繊維に細かい傷ができ、損傷しています。
その損傷を回復させるために必要なのがタンパク質です。
肉や魚、卵に豊富に含まれた良質なタンパク質を取りましょう!
ワンポイントアドバイス
糖質、タンパク質以外にも、ビタミンをしっかり摂ることで回復は早まります。筋グリコーゲンの回復やタンパク質の回復を高めるビタミンB郡、筋肉の修復を早めるビタミンEを摂りましょう!ビタミンB郡が豊富でタンパク質も同時に取れる『ブタ肉』とビタミンEとタンパク質が同時に取れる『ナッツ』はおすすめ!
注意点⑥レース直前は控える
坂道ダッシュは回復に時間がかかり、疲労が蓄積しやすいトレーニングです。
マラソン本番などレースの直前は控えましょう。本番が近づくと焦りを感じて、高強度なトレーニングをしたくなる気持ちも分かりますが、コンディションを整えることを優先させましょう。
坂道ダッシュをやっていいのはレース2週間前までです!
坂道ダッシュ、キツイ。効果、絶大。
坂道ダッシュはとてもキツイトレーニングですが坂道ダッシュを練習に取り入れることで、短時間で高強度の負荷をかけ心肺機能・スピード強化を強化することができます。
坂道という地形を利用して、自然に筋肉に大きな負荷をかけスピード・スタミナを強化する筋力アップに繋がります。
坂道ダッシュを行うことで自然と身体の動きが大きくなり、普段の走りでもダイナミックで効率の良いフォームを身につけるのに役たちます。
このようにフルマラソンで自己ベスト更新を狙うランナーにとってかなり効果のある練習方法です。
過去にSPIRITS RUNでも急勾配の坂道をダッシュする練習会を開催しましたが、参加してくれたランナーの方々も、指導していた僕らもヘトヘトでした。笑
非常にキツイですが、「もっと速く、長く走れる体を作りたい!」「上り坂に強いランナーになってペースダウンを防ぎたい!」「タイムを伸ばして自己ベスト更新したい!」
というランナーの方にとっては効果的なトレーニング法なのでぜひ練習に取り入れて試してみてくださいね!
30km以降も失速しないフォームの秘密
仕事やプライベートで忙しい中、自己記録更新を目指す市民ランナーへ